医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その86令和4年7月2日

98歳になるのを目前に、彼女は急に食事が出来なくなった。「いつもよりお腹が張っている感じ」と娘様たちが訴えるので、腹部CT検査をした。小腸が著明に拡張しており回腸末端に閉塞を起こしていて、周囲のリンパ節も腫れていて、おそらくは“がん”だった。

3年前、他院に通院していた彼女が娘様たちに連れられて来院した。今後はうちで診て欲しいのだと。超高齢だから、どんな病気が隠れていても不思議じゃない。今更見つけても手術とか治療はするのか。見つけるまでに詳しい検査が必要。身体に負担がかかる、お金もかかる、一体何処までやれば良いのだ。血液検査や簡単な検査では全く異常がない。でも、今までになかった浮腫が出現している。これは本当に年齢のせいだけなんだろうか?悩みながら、3年が過ぎ、病状が顕著化してきてやっと判明した。

今思えば、何となく変調をきたしていたこの3年間で回盲部がんは大きくなったのだろう。日々試行錯誤しながらそれなりに元気に過ごせるように治療してきた。コロナやインフルエンザのワクチンも打ち、転倒しては傷手当てして、下痢や便秘と闘ってきた。食思不振や脱水症と闘ってきた。がんと判ってからは、訪問診療に切り替えた。

「先生か、来てくれたんか、」と訪問する度、私の手を握る。「今日も元気で何よりです」「元気なことなんかあるかいな」「でもほら顔色良いですよ」「そう?センセのおかげや」……。いつも同じフレーズを繰り返し、やがて終わる日を待っている。3人の娘様が順番に付きっきりでお世話をしてくれている。安寧に過ごすために、医療を使い最大限環境は整えている。だからせめて、それが幸せな時間であったと信じたい。