医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その85令和4年6月6日

56歳の彼女は、私に会うなり泣いた。「最期を家で診てもらえる。これで安心。」と。彼女には障害を持つ娘様がいて、その行く末についてやらなければならないことがまだあった。GWまで普通に外出出来ていたのに、急に悪化し、今は純酸素を5L/分で流しても息絶え絶えである。

左下腿に出来た悪性軟部腫瘍と闘って、もう3年が過ぎていた。元々の腫瘍はとっくに切り取ったのに、僅かに残っていたがん細胞が肺や肝臓に悪さをしていた。「息が出来ない。」と感じる苦しさは尋常ではなく、苦しさを紛らわせるために彼女は麻薬を飲み続けた。副作用である眠気や便秘はその比ではなかった。息子様が甲斐甲斐しく彼女のお世話をしてくれていたが、男手ばかりでは保清などは十分でなく、訪問看護師がすぐ力になれた。訪問入浴も勧めたがまだ若い彼女は恥ずかしがった。K-POPの話で盛り上がったり、元旦那様が出現したり、在宅療養はそれなりに楽しく過ごせた。

10日目、麻薬を飲むことも苦しくなった。夕方から頻回に看護師が呼ばれた。身の置き所なくあえぎ続ける姿は痛々しかった。筋注や静注で麻薬を投与して手を尽くすが、少し間穏やかになった呼吸はすぐに荒くなった。明け方まで続いた手当も虚しく、静かに呼吸が止まった。ご家族みんなの傍で、みんなに見守られながら。あまりに早いご逝去だったが、みんながあまりに満足気で、私はなぜか無性に悲しかった。