医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その84令和4年5月7日

「好き勝手して生きてきた人なんで。」わがまま振りにあきれ顔の娘様が言う。もう透析もしたくないと、歩けないほどの腹水パンパンの大きなお腹を抱えて、病院から退院してきた。多発肝細胞がん末期状態、慢性心不全も慢性腎不全もある。家に居るなら在宅医が必要と、ケアマネが慌てて申し込みをしてきた。命がやがて終わるのは覚悟しているが、痛いや辛いの訴えに家人だけで対処出来るものでもない。

訪問すると、ろくに挨拶もしない間に「早うして、さっさと帰れや。」失礼この上ない。腹水はかなりなもので、穿刺排液しないと食事も通らない様子。5Lの腹水を3時間かけて抜いた。抜き終わると「Hotto Motto買ってきて~」。毎週、この調子。

腰から下も浮腫んでいて、自分では手も届かない。看護師がふくらはぎをマッサージすると「気持ちいいわ、それ」と上機嫌。「ご苦労さん。」と言ってくれるようになったものの、訪問時間が少し遅くなると「早う来んかい!」と悪口雑言。食事が十分に摂れなくなって、「好きなものだけでも口に運んでね。」と言うと「食べたいもんは、もう、とおーに食べてるわ!」何にもして欲しくない日もあるらしく、「明日明日」と手で追い払われる。悔しいくらい、勝手者

およそ1ヶ月が過ぎ、一晩中、起こしてくれ、寝かせてくれ、を繰り返した次の日、静かに呼吸が止まった。あんなに手こずらされたはずの娘様が、大粒の涙を流して泣いた。愛されていたんだ、肉親の死は特別なものなのだ、と改めて思った。