岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス
「通院で着ていく服がわからない。」と奇妙なことを言う。夜通し服を着替え続け、結局服装が決まらずパジャマのままで踞っている。初回訪問から、彼女の行動は奇想天外だった。
68歳の彼女は、30年前に子宮体癌、手術にて完治したが子供が授かれなかった。22年前に直腸癌、これは手術にて完治した。20年前から関節リウマチ、12年前から糖尿病に対してインスリン療法開始と、ずっと病院と付き合ってきた。ここに来て、横行結腸癌、骨転位、肝転移と末期状態になった。奇妙な行動は、次々と起こる不運な出来事を悲しみ、そして拭っても 拭っても取り切れない不安の現れだったのかもしれない。
通院が出来なくなり、でも病気の管理は必要で、訪問診療が始まった。病気が多数あると、薬効が相反することもあるので、微妙な調整が必要。ようやく、薬が整って効いてきた。やっと笑ってくれる。ご飯を食べてくれる。指示を守ってくれる。信頼してくれる。
「病院」と聞くと怯えたような表情をする彼女は、1回も大きな検査には行かなかった。病状はゆっくりと進んだ。いろいろあったが、1年と1ヶ月、頑張った。洋服も落ち着いて選んで外出出来るようになった。看護師とお風呂にも入った。散歩にも行った。道や家や公園を詳しく説明してくれる、実はおしゃべり。お茶目で、楽しい人。献身的にお世話してくれた旦那様の傍で、眠るようにこの世を去っていった。