医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その42平成28年12月17日

急に認知症が進んだ92歳の彼女が、サービス付き高齢者向け住宅に入所してきた。ニコニコしていて快活で、80歳代に見えた。「しばらくご厄介になります」と愛想良く挨拶してまわった。

次の日は、泊まるはずではなかったところで泊まったことに不安を持ったらしく、荒れていた。「息子が嫁の言う通りにした」「捨てられた 」「仕事が残っているのに、こんなとこにおられへん」「家に帰りたい!」とロックされた自動ドアを叩き続けていた。それでも、少しの鎮静剤で治まり、その次の日には何事もなかったように、またニコニコしていた。

元来、明るい性格。昔の写真を皆に見せて説明している。働き者で、働きながら三人の男の子を産み育てた。腰が痛いのも、「そりゃ歳だもの、これくらい痛いわなぁ」と笑い飛ばす。人が聞いてようが聞いていまいが、常にしゃべり倒している。施設でのイベントには率先して参加して、ムードメーカーとなった。そんな彼女が、急にしゃべらなくなった。

詳しく調べたら、膵がんが進行していた。それ以上の精査も治療も希望されなかったため、対症療法に徹した。看護師は毎日訪問し、食事や排便コントロール、疼痛コントロールに努めた。私も毎週診察し、彼女らしい療養スタイルを目指した。

それから2ヶ月後。がん死か寿命かわからない自然な経過で、彼女はこの世を去った。泣いてたり、笑ってたりしながら、「おかあさーん」と何度も口にしていた。ちゃんと会えたかなぁ。