医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その91令和4年10月27日

5人兄弟の末っ子、67歳の彼は独身で、悠々自適に生きてきた。昨年4月から体調が良くなかったが、8月に病院に行った時には既に胃がん末期と診断された。それから1年、痛み止めだけで過ごしていた。やがてそれも効かなくなり、腹水で入院した。抗がん剤が開始され、腹水を抜いてもらうと楽になった。それでも気分不良は続き、食事や服薬が出来なかった。病院にいてもこの治療が完治につながらないことは知っていて、彼は在宅療養を希望した。

独居で療養する場合、見守る人がいないのでヘルパーを導入することが多い。まだ自分で動ける彼は、近くに住むお姉さんを頼ることとし、食事は食べやすい出来合いのものとたくさんのサプリ、排泄と入浴はマイペースでなんとか自力で。服薬は真面目、在宅酸素なども受入れ医療者の意見も聞いてはくれたが、自分を曲げなかった。「自分のことは最後まで自分でするから」と。自分が入りたい時に、あるいはお下を汚してしまった時に、一人で入浴していた。それが危険だと何度も説明したが、そこは自己責任で、と言うから仕方なかった。

午前診中に私の携帯電話が鳴った。お姉さんからだった。泣いていた。慌てていた。お風呂に浸かったまま冷たくなっている彼の傍で。

引き上げてお体をきれいにすると、その顔はとてもきれいで、穏やかで、精一杯生きた証のようだった。