医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

ご予約・お問い合わせ/tel:072-448-6644

DIARY2

その68令和2年11月9日

「以前ね、身内がお世話になったのよ。」7年ほど前、まだ3人の男の子の子育て真っ最中だった48歳の女性を在宅ホスピスの末、見送った。息子の嫁の妹さんだったそうだ。

とても80歳には見えない彼女は、快活に話す。お化粧もしていないのに華やかな印象。3年前の検診で肺がんが見つかった。数々の治療を受けてきたが、もう根治は難しいと言われた。在宅診療が始まる前、負けるもんかと思って旅行に行って来たと言う。それから少し食事が出来るようになった。

1ヶ月間は本当にお元気だった。私が講師を務めた公開講座にも、夫婦そろって聞きに来てくれていた。生きることに、勉強熱心だった。

「食べられんかったら弱るでな。わかってるけど、食べられへん。」腹水でパンパンになったお腹をさする。「抜いたら体力落ちる」けど、抜いてちゃんと食べた方が元気やわ。4時間かけて6Lも抜いた。その夜から、美味しいものをリクエスト三昧。

1週間後、やはり腹水は半分以上戻っていた。「もう一回、元気にさせて」と懇願され、翌朝早くから時間をかけて4L抜いた。2日ほど動けていたかな。その後は自分で自らの身体さえ動かせなくなっていった。

夫と3人の息子達の誰かが絶えず傍らで見守った。嫁も孫も来て賑やかなこと。みんな目を赤くして泣いているくせに笑ってる。惜しまれて、愛されながら、さよならして逝った。

死化粧の時、夫が小指で口紅を塗りつけた。「顔色悪い時、いつもこうしてやってたんや。」その顔はよりいっそう華やかに見えた。