医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その65令和2年8月27日

「夕べ、大変だったんです。」と朝になってから、連絡が来る。夜中に眠ってくれず何回もトイレに起き上がろうとするからと。思うように動けないで押さえられていた彼も、一晩中眠れずに対応していた家族も、それじゃ悲しすぎる。「もう無理です、入院させて下さい。」そりゃそうだ。

一家の大黒柱たる彼は、81歳になる直前、肺がんが見つかった。脳転移、骨転移していた。痙攣や右下肢の痛みに対しては対症療法でなんとかなったものの、肺がんを根治出来なかった。立派だった彼の言うことは絶対で、その一言一言に家族は振り回されていた。何もかも自分たちだけでやろうたって、それには限界がある。頑張り過ぎる事は良いことではない。直ぐに疲弊し、結局、介護を投げ出すことになった。

入院してしまって、もう自宅療養は無理だろうと考えていたのに「やっぱり家で看てあげたい」と連絡が来た。今度はもっと私達医療者に甘えてね。介護サービスを使おうね。夜中でも呼んでね。そう約束した。食べられない時は適宜補液、眠れない時は鎮静、重度の貧血には輸血など、これらは延命のためではなく、残った時間を快適に過ごすため。家族との緻密な連絡、信頼関係の上にだけ成立するもの。

輸血しながら、大好きなポテチをつまんで食べていた姿を思い出す。それから2週間後、彼はいつもの生活をしながら、静かにこの世を去っていった。