岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス
頚部の筋力が落ちたせいでうなだれてしまった首を、ゆっくり上に持ち上げながら彼女は話す。95才だけれど、矍鑠と話す。足下が頼りなくなり通院出来ないことを理由に訪問診療になったが、実は膀胱がん末期。持病の慢性心不全と相まって、身体のだるい日が続く。高齢でもあるし「ある程度仕方がない」と話すが納得しない。24時間体制の訪問看護が電話一つで対応するからと説明するのに、真夜中に呼びつけるのは可哀想だと、救急車を呼ぶ。すぐ帰されてくるのに、救急車を呼ぶ。
やっと看護師に電話してくれるようになった頃、高熱を出した。誤嚥から気管支肺炎を起こしていた。緊急入院になった先で脳梗塞まで引き起こし、ICUで生死をさまよった。
家で死にたいと、いつも言っていた彼女は、その思いが通じたか退院してきた。帰宅後第1声「すき焼きが食べたい」とのたもうた。ほとんど口から摂取出来ないのに。その翌々日だった。静かに呼吸が止まり、やがて心臓が止まった。満足気な表情だった。家で好きに暮らしていた彼女のままで旅立った。