岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス
3年も前から左耳下腺の腫れを気にしながら、鍼治療をしていた。2年前、意を決して受診したら耳下腺癌だった。切除術後放射線治療も受け、それでも痛みが出てきたため医療用麻薬を処方されたが悪心嘔吐で中止。調整が難しいためペインコントロールと、在宅ホスピス希望にて紹介されてきた。52歳の若さでは結構なダメージで、精神的落ち込みは相当だった。
彼女は気前の良い娘で、人に気を遣ってしまうタイプ。遠慮がちに生活する彼女を夫は愛し理解し、介護休暇も取り療養に協力してくれた。痛みが緩和され、自分で身の回りのことが出来るようになると、残された時間、有意義に過ごしたくなる。病巣が首回りなので、ハイネックを着てウィッグを付けて、やっとお化粧する気になって、お出かけも楽しめた。
けれど、転移巣は肺、骨、顔面神経と広がっており、容赦なく日毎大きくなる。低酸素になり在宅酸素導入、左結膜が濁り視力低下、肩こり腰痛の増悪、左顔面が弛緩し咀嚼出来なくなった。便もオシッコも出にくくなった。気丈にも「苦しいとは言うまい」と、心に決めているかのようだった。思わず口から溢れ出る「助けて」を慌てて打ち消す。
「よく生きたと思うんです、もう寝かせてやってくれませんか。」全てを飲み込むような夫からの提案だった。翌日、静かに眠ったまま、彼女はこの世を去った。