岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス
50歳になってすぐ食道癌と診断された彼は、その現実がどうしても受け入れられず、家で療養していました。血液の混ざった下痢便が止まらずほぼ垂れ流し、十分に食べられず食べてもその後すぐに吐いてしまう。痛みがあってベッドから起き上がれない。脱水と栄養障害、下肢筋力低下が進行していました。奥様が困り果てて、人づてに相談に来られました。
病院では麻薬が処方され、緩和医療について説明され導入を勧められていたにもかかわらず拒否し、勝手にインターネットで「免疫療法」を謳っている病院から、高額の点滴製剤を買っていました。「つべこべ言わず、この薬を打ってくれる医者を探してこい」と奥様は言われたようでした。大した内容ではない、ビタミン剤や制吐剤の組合せのその点滴は、通常の10倍の値段でした。でもそれを使わないのはもっともったいないので、それらをベースに必要な薬剤を足して投与していきました。
点滴や輸血を続け、生活環境を整え、ようやく病状が安定したときに、やっと笑顔を見せてくれました。病気は完治しない、けれど、医療の力を使って体調を整えれば、最期の時間をまだ「生きる」事が出来るのだと自ら説明してくれ、私達を受け入れてくれたようでした。
それでも、死までの病状は厳しいものです。痰が絡んでなかなか切れず、消化管からの出血は止まらず、イライラする彼を励まし続けました。ある日の診察時、愛想笑いのような笑顔の後、スッと息を引き取られました。私を待っていてくれたかのようでした。