医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY

いつもの笑顔平成23年4月2日

itumonoegao

いつもにこやかな彼は、いつも大きくうなずきながら、病状の説明を聞いてくれた。それが認知症の進行のせいで、半ば判ってはいないのに愛想で打っている相づちだと気付いた頃に、肺癌が見つかった。

高血圧症、肥大型心筋症、慢性心不全や糖尿病などの疾患は、きちんと薬を飲んでくれる几帳面な性格のおかげで、コントロール良好であった。何年かに1回は大きな病院で精査を受けていて、異常がなかった。前立腺癌があり、それについて病院へ通院もしていた。

だから、高をくくっていた。悪いのなら、どこかで指摘されるはずだと。急に痩せてきて、食事がうまく摂れなくなった時でさえ、気管支肺炎と考えていた。気管支炎は長引いた。なかなか治らなかった。胸水が貯まり、息切れして寝込むようになった。やっと癌の可能性を指摘されても、彼は詳しい検査を拒んだ。

夫婦二人で肩を寄せ合うようにして、お互いにかばい合って生活していた。「寿命まで何とか生きますわ。先生診てくれますやろ。」目を細めてくくっと笑い、「まだ、ご飯美味しいんです。大丈夫です。」と語った。生活のいろんな事、全てに支えが必要だった。食べること、衣類のこと、薬のこと、保清のこと、ヘルパーさんも看護師達も頑張った。

目を離すと転けて、顔も身体もアザだらけだった。その日の朝もベッド横で転んでた。呼吸は既に止まっていた。いつもと変わらない表情の彼を、私はそのまま看取った。