岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス
2年半前に手術で根治したはずの胃癌が、肺や縦隔リンパ節へ転移し再発した。化学療法を受け腫瘍塊は小さくなったが、次は小脳に転移した。γナイフという武器でやっつけたものの、てんかんや眩暈が残った。
74歳の彼には全て知らされていた。最愛の妻と残りの時間を過ごし、思い残すことなくこの世を去るために、家で療養したいと願った。奥様は若いゆえに色々考えてしまって、家での療養を初めは嫌がった。
毎日家に居たのでは多趣味な奥様の負担にもなると、週に2日デイケアに行った。伊勢など近くて身体に負担が少ない旅行を楽しんだ。旧友が順番に会いに来てくれ、泣き笑い語った。たしなむ程度のお酒を喜んだ。看護師との散歩では自分の脚力の評価を怠らなかった。誠実で、生真面目な毎日、癌末期なんてウソじゃないの?と思わせる穏やかな日々を5ヶ月通り過ぎて、やがてお別れが来た。
自分で居住まいを正し、家族に向かって言う。「家長として言っておきたいことがある。」もう皆十分に分かっている。この生きる姿勢をみて、このように生きていきなさいと言っているのだと。長男が、身体を支えながら真正面に座って、「オレ、叱られているみたいだ」と笑った。
亡くなるその日、お風呂大好きな彼は訪問入浴サービスで入浴させてもらった。痛みは薬でちゃんと消えていて、束の間、笑顔だった。満足げな笑顔だった。