医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その38平成28年8月26日

小柄で可愛い印象の85歳の彼が、長年通っていた内科の先生から紹介されて来た。肺癌末期だった。心臓のバイパス手術と腹部大動脈瘤の手術も受けていて、心機能がかなり低下していた。でも、時々咳をする以外はお元気で、しっかり者の奥様と自慢の美人の娘様を従えて、いつもベッドに端座位をとり、私に「ご苦労様」と右手を挙げて迎えてくれた。

「もう結構」が口癖だった。看護師が水分摂取を促しても「もう結構」、入浴を促しても「もう結構」。やっと重い腰を上げて入るお風呂の中では彼なりの手順があって、それをきちっと守ってあげる几帳面な奥様が居た。浴槽のどの角からどっちの足から入るかまで決まっていた。

病状は、本人も奥様もしっかり伝えてくれた。鎮痛剤のこと、点滴のこと、酸素のこと。ちゃんと説明して納得しないと受け入れてくれない。でも、納得してくれているから、少しくらい飲みにくい薬も飲んでくれるし、痛い点滴もさせてくれるし、酸素のカニューレも着けててくれたんだと思う。

静かな最期だった。奥様が「上沼恵美子聴こかぁ」と、お気に入りだったカセットをかけてあげたという。笑ったような、最期の大きな息をして、そのまま呼吸が止まった。