医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その36平成28年7月19日

35歳の彼女には12歳♀4歳♀3歳♂の子供さんがいた。長男くんには軽い障がいがあった。これまで時間もお金も惜しまず、がんが静脈を巻き込んで首から上と右腕が腫れても、ステロイドで顔が丸くなっても、どんなに苦しくても治療を続けて来たのは、子供達のために少しでも長く生きたいと願ったからだった。でも、限界に来ていた。肺がんは若い身体を蝕み、美貌だけでなく、快活な日常だけでなく、命まで取ろうとしていた。

子供との時間を大切にしたいからと自宅に帰ってきたものの、息苦しかったり胃が張って何も食べられなかったり便が出なかったりと、自分の管理に追われていた。イライラして、子供には大きな声でしかりつけ、夫には愚痴をこぼし毒づいて、思うようにならない療養生活は辛いばっかりだった。

たまりかねて聞いた。「何しに帰ってきたんだっけ。」「限られた残りの時間、自分らしく生き抜くんじゃなかったっけ。」心残りがたくさんあって、焦る気持ちもわかる。でもね、子供はお母ちゃんを見てる。病気と闘っている勇姿、いつも前向きでいる逞しさ、夫に甘え(時に喧嘩し)ている可愛さ。見舞ってくれるお友達の多さだって、自宅療養の中で、みんなみんな子供に伝わってるんじゃないかな。

それからの彼女は自分らしさを取り戻して、笑顔で毎日を送った。「叱ってもらって良かった。先生ありがとう。」亡くなる前日の夜、家族とたくさんの友達に言ってくれたという。彼女は、私まで救ってくれたんだ。