医療法人葵会にしだJクリニック

その93令和4年12月1日

B型肝炎ウイルス感染に対しウイルス治療が出来るようになり、彼も様々な薬で治療してきたようだったが、10年前に肝細胞がんを発症してからはがん治療に追われていた。80歳になって、肝予備能も腎機能も悪くなり始め認知症症状も出現して、緩和治療の方針となっていた。

昨年6月には明らかな血尿にて尿路系への転移が判明、腹水も4Lくらい貯まるようになって歩行困難、通院も難しくなったからと在宅診療に紹介されて来た。

初回訪問診察日、腹水を外来で抜いてもらって楽になっていて、特に痛いところもないので気楽に過ごしている様子だった。老夫婦仲良く、助け合って生活している感じだった。食事はだんだんと食べられなくなっていったが、意外にお寿司や鰻やと好きな物なら喉を通るようだった。広いお家の中も伝い歩きなら出来て、最期の方まで自分でトイレに行けた。認知症だったのに｢もうそろそろあかんみたいや｣とご自分で言い、その後ベッド上で１ヶ月大人しく過ごし、そのまま穏やかに逝ってしまった。

妻にも少し認知症状が出ていて、何処まで理解されているかわかりにくかったが、「絶対下の世話は嫌！」と言っていたのに、「やっぱり家で看ます」と、最期まで彼の傍らにいた。お看取りの時、本当に逝ってしまうと思っていなかった様子で、ずっと放心状態だった。淋しそうだった。