岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス
お布団のこんもり盛り上がった下に小さく埋もれるように寝ている彼女は97歳。乳がんサバイバーである。97年生きてきた証のように、捨てられないで持ってきた物が、決して広くはないサービス付き高齢者向け住宅の部屋の片隅に堆く積まれている。おかげで、車椅子が回転できないくらい。
8年前、高血圧と腰下肢痛で初受診された。毎月、息子様が連れてきて下さり、いつも何かしら文句言いながらも欠かさず通って来られた。約2年前、身の周りの事に沢山の手が必要になって、サービス付き高齢者向け住宅に入所された。1年経つと、遂に送迎車に移るのさえ大変になり、本人が「しんどいから先生に来てもらって」とのたもうたので、訪問診療が始まったのだ。
摂食量が減っている連絡を受ける。点滴するとすぐ元気になる。「目が見えません。」と言いながら手引きで歩いてトイレで用をたせる。昼間からカーテン引いて眠っててはダメ、と言うと「目が痛いからつむっていただけ」と言う。浣腸や摘便すると「痛ーい、バカ!」となじる。「お腹が空かないのよ、おやつ食べさせられるから。」と憎まれ口を叩く。言いたい放題!それでも、爪切りしてもらった手を眺めながら「スッキリしたわ~、ありがとう。」「みんな、ご苦労様です。」の感謝の言葉も忘れない。
発語が少なくなりかけてから心臓が止まるまで、約2週間。毎日、身体のケアと少量の点滴を続け、穏やかに彼女の人生は幕を閉じた。