医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その8平成25年9月20日

彼は「65歳」で、会社でも偉いさんになってて、息子さん達も独立して、これから奥様と悠々自適の生活を楽しもうとしていた矢先だった。血尿が出て、すぐに右尿管癌と診断がつき、手術となった。すぐには命の危険はなかったが、それかずっと抗癌治療を続け、病院とは離れられず、でも比較的元気で過ごしてこられた。

5年後、骨と脳に転移したのがいけなかった。まず腰や背中に痛みが出始めた。麻薬系鎮痛剤でないと制御出来なかった。脳に転移した症状は、食欲不振、嘔気嘔吐だった。保存的加療でいこうと決めた主治医に対し、セカンドオピニオンでは「切除した方がベター」と言われた。息子さんが切るべきと判断した。

頭の手術を終え、元気になりきらないうちに在宅診療が開始した。生活のあらゆる場面で手助けが要る状態だったから、看護師の言うことはよく聞いてくれた。でも根っからの医者嫌いで、私にはいつもしかめっ面の印象しかなかった。時間に少しでも遅れると、「医者は人を平気で待たせる」と叱られた。

プライドの高い人だった。社会的に地位のある人だから当然だった。起き上がることすら大変になった時でさえ、紙パッドの中には排尿出来ず、尿道カテーテルを留置した。最期の前日まで会話出来ていた。身辺にはいつも気を遣っていた。

それでも闘病でやつれたお顔は、死化粧で穏やかなすましたお顔に戻った。「やっぱりまだこんなに若かったんだ、と実感します。無念です。」奥様はそう言って、彼の頭を撫でながら泣いた。