医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その58令和2年1月8日

珍しい病気だった。世界でも症例数が少ないので、どんな臨床経過をたどるのかさえ不明で、死後の検体もお願いされたという。

10年前、左大腿部に出来たメラノーマを、大きくえぐり取って完治した。その8年後、腹痛で病院を受診した時、既に小腸にも左上腕の皮下にも肺にも乳房にも、肉腫が出来ていた。全部関連性のある「明細胞肉腫」というがんだった。それから1年。試行錯誤の中、抗がん治療をやり尽くして、ほとんど自分では動けないベッド上生活になった。何度も余命宣告されながら、生きてきた。「家で過ごしたい」と在宅ホスピスを希望し退院してきた。

68歳の彼女は、夢を語った。故郷(石川県)にもう一度帰りたい、街に買い物に出たい、自宅の2階にあがりたい、お風呂に浸かりたい。叶わせるためにはまず、症状緩和。食欲アップ、排尿排便の管理、生活環境の整備。全部、実現したよ!!!その途端、背部痛、血尿、悪心嘔吐、躁鬱、息苦しさ……。

しんどい時も笑って迎えてくれてた顔が、頬の痙攣と息苦しさで歪む。脳転移だ。苦しいのにまだ命は続く。「眠らせてあげたい。」この事態が解除されるのなら、薬で呼吸が止まっても一体誰が後悔するだろう。

眠ったまま、それから35日後。家族に見守られお世話され、希望通りご自宅で、ようやく人生の幕を下ろした。最後に、華やいだ赤い口紅をつけた。これからどこかへお出かけするみたいに笑ってた。