医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その80令和3年12月17日

彼女は、ずうっと以前に外来に来てくれたことがあって、確か、腰痛を治療したと思う。ずうっと前だから詳細は覚えてないけど、なんか不敵にほくそ笑む表情は記憶にあった。「私、肺がんなんだって」と、他人事のように言う。「家に帰ってきて、元気出た!先生に元気もらえる!」とも言った。そう、この言葉、彼女は前にもそう言った。

3階のアパートの部屋は、引き続き放射線治療に通うにも、気晴らしに外出するにも、不都合だった。でもご家族は協力して、毎日車椅子に彼女を乗せたまま、階段を降ろした。息子さんも娘さんも甲斐甲斐しくお世話をした。彼女は愛されていた。

脳転移しているせいか、行動が不可解。日中ニコニコして痛みもない様子。なのに、夜中になるとゴソゴソし始める。訊くと、痛いからと言う。ご家族は一晩中付き合って疲弊してしまう。眠剤は処方してあるけど、起きなかったらどうしようと思って飲ませてないらしい。でも、このままじゃ共倒れ。彼女はそれを望んでないよね。

家に医療を持ち込んで、状態管理に最善を尽くす。深夜、眠れない彼女に点滴をする。苦しそうに息が絶え絶えになっているのに、酸素マスクを外してしまう彼女に。「(私は)大丈夫やで。もう寝るん?」とのたまう彼女に。

それでも、命は尽きていく。せめて私は、「元気」をあげられたんだろうか。