医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その79令和3年11月15日

4年前に胆のうがんの手術を受けた。根治出来たはずだったが、2年前に肺転移した。抗がん剤治療を勧められたが本人が拒否し、治療を受けないまま、終末期在宅にて訪問診療を希望された。

80歳という年齢からも、もうすっかり覚悟の上の在宅療養で、「痛くしないでね」「しっかり眠らせてね」と、それだけを強く希望された。お迎えが来るまでの時間をどう過ごそうかと、決めているみたいだった。

彼女は、ほとんどの時間、介護ベッド上で横になっていた。たまに車椅子に移乗して玄関に置いたハイビスカスの鉢を眺めたりした。何度か誤嚥を起こしているので食事制限をすると、「もっと食べる」と主張し、不思議と好きな物は咽せることなく食べられた。小さな声だが、いつも何か言っていて、「苦しいから吸引して。」とまではっきり要求した。お薬がちゃんと飲めなくなって、ほとんどを貼付剤に替え、いつも変わらない日常を心がけた。

段々と順当に弱っていき、最後3日間は「しんどいから寝かせて」を繰り返した。薬で眠らせてしまうと意識が戻らないことがある、と説明すると、世話をしている娘様が「まだいいです」と。代わりに痛み止めを注射すると、ふっと和らいで安堵の表情をした。

おしゃべりが止まり、呼びかけに応えなくなっても、日常の世話は続けた。明日、いよいよ遠方に住む息子さんが帰って来られると知らされた日の夕方、彼女は旅立っていった。