医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その24平成27年4月12日

52歳。彼女は2年半前から闘病していた。胃癌から肝転移、鎖骨上リンパ節転移している段階で見つかった。「大きな病院での積極的な治療」を薦められたが、彼女は「岸和田の病院で出来るだけのことをして下さい」とお願いしたと言う。最初、抗癌剤は効いた。胃の腫瘍も小さくなり、鎖骨上リンパ節も触れなくなった。でもすぐに、原発巣は増大に転じた。お腹の中にどんどん広がった。抗癌剤を替えながら、頑張ってきた。今、彼女は最期の時間を過ごす場所の選択を迫られていた。

家に帰ってきてしたかったことは、たくさんあった。22歳と19歳の娘が待っていた。帰ってくるなり、娘さんの作ったペペロンチーノを5口。何にも食べられなかったのに。「メロンも食べたーい!」とリクエストしている。もう2ヶ月も入っていないから「お風呂も入りたい!」と。何を話していても泣いている。悲しいのやら、嬉しいのやら。でもわかる。この当たり前の毎日の生活が、もうすぐ終わってしまう哀しみと、今日をこうして生きている喜びの、狭間にいるのだと。

家に帰ってきて10日目、誕生日を迎えた。53歳になった。お腹の重苦しい痛みも、麻薬性鎮痛剤を開始してからすっかり消失していた。入浴して、髪もカットしてもらって、少しお化粧して、皆に祝ってもらった。嬉しそうだった。その笑顔の印象が残ったままの翌日深夜、彼女は、静かに眠るように逝ってしまった。