医療法人葵会にしだJクリニック

岸和田市|内科・ペインクリニック・リハビリテーション科・訪問診療・訪問看護・在宅ホスピス

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DIARY2

その1平成25年1月22日

彼女は65歳でも確かに若く見えた。夫は20歳も年下で、息子や娘と同世代。自分がC型肝炎で肝細胞癌のせいで、もう肝機能が低下してしまっていることなどお構いなしだ。

彼女の毎日は幸せだった。天気がいい日は、プランターで育てている花にお水をたっぷりやった後、お気に入りの音楽を聴きながら、お花模様のレースカーテンが風に揺れる下で、これまたメルヘンチックな模様のお布団をかけて、両手を胸の前で合わせて横になっている。「もうすぐ展覧会だから出品の準備をしなきゃ。そうだ、病気になった可哀想な私の自画像を描こう。最近は、食べてもすぐ吐いちゃうし、しっかり食べなきゃ体力ももたないわ。今日は腕によりをかけて美味しいものを作ろう。彼が仕事から帰ってくるのは遅いから、パーティーは夜中からだわ。」そこまで計画を話すと、スッと起き上がり、かわいいエプロンを着ける。赤い口紅をひき、冷蔵庫を覗く、料理本を引っ張り出す。こんな日は何を言ってもマイペース。横から肝庇護剤だけ注射して、しんどくなったら電話してねと退散する。

そんな夜は決まって、夜中に電話がかかってくる。「死にたいと言っています。」お料理を作るのに疲れ果て、それでも一緒に食べたいだけの高カロリー食を口にして肝性脳症を起こしてしまう。弱い自分に気持ちは落ち込み、うつ状態に突入していく。

意識が遠のき、そのまま二度と目覚められなくなる日まで、幾度となくパーティーは開かれ、心折れるまで自分をさらけ出す彼女を見た。それでも、頭に浮かんでくる彼女はいつも笑っている。