ウメモドキ

 

犬が家の中であちこちで糞をするので、部屋には悪臭が漂っていましたが、その中で彼はベッドに横たわっていました。咳の原因検索の結果、突然「末期の肺癌」と告げられ、それ以来全く病院には行かなくなりました。医療チームの介入が必要でした。人一倍臆病で、人一倍淋しがりやな彼は、目がほとんど見えず歯も欠け落ち、お金もほとんどない状態で、市の生活保護を受けていました。もはや愛犬以外に何もない彼から、愛犬を引き離すことは誰も出来ませんでした。

実際には痰がゼロゼロ絡み、少し身体を動かすだけで息切れが激しく、顔面蒼白になりました。とても一人で家においておくことなど、ましてや犬の世話など出来ない状況でありながら、自宅での療養を望まれました。苦しくて救急コールして病院に搬送されても、自主退院し帰ってきました。

汚れた部屋を何とか快適になるようにへルパーを導入し、看護師は点滴や清拭を繰り返し、生活環境を整えていくと彼にも少し活気が出て、大好きなスティックパンとコーヒー牛乳をいつとはなく貪るように食べていました。

独居での在宅ホスピスは、急変に気付く者がいない等の理由から成立しないと言われています。しかし、第3者の介入を毎日に設定し、適切な医療や見守りを受ける中で、思いのまま過ごし、死に望む形態もあってもいいのかもしれません。

「ほっといてくれー」が口癖だった彼が「ありがとうな」「楽になったわー」と言ってくれるようになった頃、お迎えが来ました。静かな一人ぼっちの死でしたが、その顔には笑みさえ浮かんでいました。

心より、御冥福をお祈り致します。

 

 


                                          〜 看 護 婦 手 記 〜

                                   ●一人暮らし             

 


 

 

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