優しい目           

 

訪問看護を始め、早四ヶ月が過ぎようとした頃、H氏の御家族が訪問診療の依頼に来られました。もう通院するのは大変なので、自宅で療養したいとの事でした。

初めてお伺いした時、H氏はベッドの端に品良く座り「よく来てくれました。お待ちしていました。」と、目を細め私達を迎えてくれました。その時の印象は、小柄で物静かな人でした。後でお聞きした事ですが、 Hさんは、「どんな先生が、どんな看護婦が来てくれるのだろうか」と落ち着かなく、ベッドに寝ていられなかったそうです。

間もなくして、H氏に老人性痴呆が見られるようになりました。昼夜逆転し、家族にも反抗的な態度をとるようになりました。食事が十分に摂れなくなり、

点滴指示が出されました。しかし体動が激しいため、安全の為に抑制しなくてはいけない時もありました。私は抑制に対しすごく抵抗と悲しみを感じました。

その後、誤嚥性肺炎を起され、様態は急変しました。体動も殆どなくなり抑制の必要は無くなりました。一時は持ち直すかにみえましたが、私たちの願いもお世話も虚しく、静かに永眠されました。

今回の看護を通して、痴呆の患者さんを持つ御家族の大変さ、また看護の難しさを思い知らされました。そういう状況下でご自宅で看取るという事が、どれほど御家族との信頼関係の上に成り立っているか、またその最期の時はどれほど素晴らしいものであるかを、改めて痛感しました。 

 

 

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