女性らしさ
紹介されて当クリニックに来られた清楚な彼女はすでに肺癌の末期でした。皮下に転移した病巣もあり前胸部には皮膚炎をおこしており赤く熱をもっていました。しかし彼女は目を少女の様に輝かせ、痛みも何もなく元気なので外来に来ます、と先生に話されました。その日に、念のためのご自宅訪問させていただきました。家には、彼女が趣味とする刺繍の作品があちらこちらに飾られ、彼女の上品さをひきたてていました。頬を紅色に染め、うれしそうに趣味の事を話して下さった、その時の元気な姿が今も目に灼きついています。
外来で点滴に来ている彼女にだんだん元気がなくなっていくのが目にみえるようになって、それでもずっと笑顔で接してくださいました。発熱がきっかけにとうとう訪問診療が始まりました。訪問開始後、彼女はみるみる内に状態が悪くなっていきました。身体が半分動けなくなっても、自分の事はいつも二の次でした。「お茶をだせなくてすみません。」とおっしゃったり、私達の身なりが少しでも乱れているとそっと直して下さいました。常に私達に気を配って下さり、女性らしさを教えてくれました。
最期、意識もなくなりながら、精一杯の力を振り絞って呼吸をしていらっしゃいました。沢山の人が集まり、「頑張れ。」と励ましの声がかかり、彼女の生き様が伺えました。そして静かに息をひきとられました。10日間の短い訪問となりました。
生前、彼女は「まだ生きたい。」とおっしゃっていました。でも「夫に子に孫に友達に、沢山の人達に恵まれ、素晴らしい人生でした。」ともおっしゃっていました。彼女の人生は、まさしくこの多くの人々に彩られ、輝かしいものであったと思います。彼女に代わって、周りの方々にお礼の言葉を送りたい気持ちです。
心より御冥福をお祈りいたします。