訪問看護

私は訪問看護に関わったばかりで、勉強することばかりの毎日です。まだ2週目が過ぎたある日、ご家族 の方が癌患者様の在宅医療の相談に来られました。私は在宅医療の導入から関わるのは初めてのことで、どのように始まっていくのだろうという思いで、面談に臨みました。

76歳・男性、肺癌末期と診断されている方のご家族が、来院されたのは5月の連休前のことです。「お義父さんが家に帰りたい、家に帰ると元気になる。と言うのですぐにでもつれて帰りたいのですが。」とお話され、在宅医療を強く希望されました。その思いに動かされ、すぐにベッド等の手配がされ、翌々日の退院の日より訪問が開始となりました。

初めてお会いしたK氏は、笑顔で私たちを迎えてくれ、「なにか用事があるときはこの笛を吹いて、家族を呼ぶんだ。」と笛を見せてくれました。その姿をみて、思っていたより元気であると感じました。しかしその元気も束の間、息苦しさ・痛み・倦怠感が増強し状態は悪化、すぐに苦痛を緩和する治療が開始となりました。「この治療で、しんどいのは楽になるよ。」という先生の声かけに、頭を上げるのもしんどいはずのK氏が頭を少し上げて、「先生、本当にありがとう。」とおっしゃり、目に涙を浮かべていた姿がとても印象に残っています。そして訪問開始6日後の休日に、家族に見守られ永眠されました。

私はこの訪問看護を通して、まず在宅医療は、家族が在宅への強い意志を持ち協力できることが不可欠である事、そして患者さんの意思を尊重することで、患者さん自身の中に秘められた力が湧き出てくる事を実感しました。今まで病院での死は何度も立ち会ってきましたが、どこか冷たく感じていました。それとは全く違い、住み慣れた家で、家族に見守られての死は、なぜか暖かいものを感じ、K氏のお顔もとても穏やかに見えました。これが自然なことなのかなと思いました。

このようにたくさんのことを学ばせて頂いたK氏とご家族に感謝し、安らかなご冥福をお祈りいたします。

 

 

 

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