夕顔

 

肺癌の人はずっと呼吸困難と戦ってきたから、何はともあれ、息苦しさを少しでも和らげてくれる事を望んでいます。彼もそのとおりで、何か気を紛らわす方法はないのかとイライラした様子でした。薬や生活環境で何とか工夫をするものの、簡単にいかないのはいつものこと。時間も必要と考えている内に、病状は急降下していきました。ほんの1週間足らずで、私達の仕事は終わってしまいました。唯一良かった事は、ご家族の覚悟が既に決まっていて、まだ信頼関係が十分築けていない状態でも、家で看取りができたことでしょうか。

二間しかないお家で、介護ベッドを持ち込んで、いっそう座る場所もなくなっていました。家族が顔と顔を突き合わせて生活している中、大きな祭壇が置いてあって、何かの宗教を信仰していらっしゃるようでした。近くに住む嫁いだ娘さんは生まれたばかりの孫を抱いて、お世話しに来てくれていました。痩せた彼とは対照的に、何故か御家族みんなが太っていました。家の前のプランターでは、夕顔が淋しそうに咲いていました。

何もかも、まだ十分に彼自身を把握できない内に、お別れが来ました。意志の固い頑なな方で、泣き言一つ言わず、私達に頼る事もなくお別れになりました。もっと早い時期に出会えていたなら、もっとできることがあったのに。看取る形も大切だけれど、それまでの時間の過ごし方が、もっともっと大切なのに。残念に思いながら、死後の処置をさせていただきました。

心より御冥福をお祈り致します。

       

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