すみれ

 胆のう癌の彼女は82歳。大人しくて、小柄で色白で、ちっちゃい印象です。いつもにこにこされていて、至れり尽くせりしてくれるご家族の為すがままに、なっています。癌が見つかってから病名も余命もご本人には告知されていないけれど、何もかも知ってるみたいな、仏様みたいな方です。糖尿病や高血圧の治療を長く受けてこられたからか闘病に慣れた感じです。癌性疼痛でさえ、じぃっとお腹を抱えて我慢してしまい、自分から訴えてくることはありません。そして、「家に居られる」事が、何より嬉しいと言ってくれるのです。
 家では、旦那様が野菜をいっぱい入れてしっかり煮込んだおじやを、毎日作ってくれます。息子さんや娘さんが代わる代わる、足の空く間がないほどずうっとさすってくれます。傍に居る人が途絶えることなく、それはそれは大事にしてもらっていました。
 家人が「夜眠れていないようです」と言えば、ご本人が「いえ、寝ていますよ」と、「食事が十分に出来ていない」と言えば「いえ、食べてます」と、決して悪いようには報告してくれませんでした。「顔をしかめとるが、本当は痛いんじゃろうが?」と御家族が問いただしても、静かに首を横に振る仕草は、今も脳裏に焼き付いています。ずっとずっと御家族の傍に居たかったからなんだろうなぁと、今なら、その切ない気持ちが判るような気がしています。
 心からご冥福をお祈り致しております。


         
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