すかしユリ

 全身脱力感は、ヘモグロビン量3.9mg/dlというかなり重症の貧血に因るものだった。78歳の彼女は、足が痛くて長くは歩けない。身の回りの事をするのに腰が痛くて、痛み止めをたくさん飲んでいた。出血性十二指腸潰瘍を起こすくらい、たくさん飲んでいた。だけどあまり動けなかった事が、発覚を遅らせたらしい。彼女は数年前に大腸癌の手術もしていた。完全に治っていると思っていたと言うが、肺と肝臓に多発転移していてもはや手の施しようがない状態である事も、その時発覚した。

 病状を説明しても、一向に受け入れられない。家の中でさえ這ってしか移動できない状態なのに、医師が診察に来る事を嫌がった。狭いアパートの一室で、昼間は働きに行って居ない次女さんの帰りを一人で待っていた。

やがて、長女さんの家に引き取られ、療養させてもらえる事になった。お孫さんの3人いる家庭での生活は、気兼ねしながらも楽しそうだった。少し余裕が出来ると家事を手伝いたがり、早朝からゴソゴソと雑事をこなしていた。同居してもらえた事を喜んでいた、何よりの現れかもしれない。

食べる量が極端に減り、眠って過ごす時間が増えた。オシッコが出なくなり、意識レベルが低下して来たのに、「ありがとう」を繰り返した。お孫さん達の声にはいつも反応していた。家族っていいなあと、改めて思い知らせてくれた。

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