セージ
最近では目立って高齢でもない、82歳という年齢。個人差の大きい80歳台は、癌の告知に関しても賛否両論分かれる年齢です。彼は、全てをありのままに知っておられました。胃癌であり、切除術後2年して肝転移、そして余命は3ヵ月だと。
広い庭のある大きなお宅で、隅々までお掃除の行き届いた2間続きの和室にお布団が敷かれていました。ひなたぼっこしながら、確かめるように一歩一歩自分の足で庭を歩いてみるのが彼の日課でした。痩せてはおられましたが、食欲は旺盛で、好きなメニューをリクエストし、完食してご家族を驚かせていました。
訪問開始して2週間目。時々右脇腹を押さえてしかめっ面をしていたのも鎮痛剤の調整で消失し、2倍くらいに腫れていた下腿も足を挙げて寝ることで改善していました。しかし3週間目過ぎから、急に食欲が落ち、浮腫みが大腿部から陰嚢にまで広がり歩けなくなりました。結局、楽しみにしていた一泊旅行は中止してしまいました。
呂律が回りにくくなった彼が、「あと1ヶ月であの世やな…。」と笑った時、看護師達は泣きました。全てを知る彼になんと言えばいいのかと迷いました。黄疸で黄色くなった肌はいくら丁寧に拭いても拭いきれませんでした。“彼の選んだ道ですから。”毅然とそう言い切る奥様の横顔には、伴に死の宣告を受け、その現実を受け止めようとする決意が刻まれていました。理解し、伴にあるご家族が居て、初めて在宅ホスピスは成り立つのかもしれません。
心よりご冥福をお祈り致します。