ポインセチア
知人の看護師から、「家で末期癌の闘病生活を希望している人がいるんだけど、相談に乗ってあげて」と紹介されたのは、まだ63歳の男性。奥様は娘さんとたった2歳違いの42歳で、初めて娘さんと連れだってクリニックに来られた時は、まるで姉妹のようでした。彼は痩せておられましたがしっかりした足取りで、「お腹と足の痛みがなかったらな」と照れたように笑っていました。膵臓癌による腹痛はもとより、骨に転移した足や腰の痛みが強かったのですが、「外来に通院する」と仰いました。しばらくの間は、鎮痛薬を処方し、点滴したりして小康を得ていましたが、その内、食事が思うように取れないと訴えるようになり、連日の点滴が必要になってきました。毎日来るのは、体力も消耗するし、送り迎えが大変だということで、訪問診療を申し込まれました。その日、「今日は家族みんなで温泉に行ってくる」と楽しみにして出かけました。にもかかわらず、外出先で足を滑らせ、大腿部の癌転移巣を骨折してしまいました。即入院となり、安静を強いられることになり、ベッドに縛られたままの毎日。「俺にはまだ仕事が残っている」と在宅療養を強く希望され、自宅での闘病生活が始まりました。
帰るなり、早速ベッド上で書類を整理する彼。「何でもするから、なんとしても長生きして!」絶えず横にいて甲斐甲斐しくお世話をする奥様。その願いは悲痛なものでした。折れた足は丸太のように腫れて重く、ずっとさすってもむくみは広がるばかりでした。
それでも、家族に囲まれた彼はいつも幸せそうでした。意識がなくなった日、その直前まで時計を気にし、なぜか「今、何時や」と聞くのです。人目を憚らず奥様の手をしっかり握り、まるで一心同体の二人はこの先も残された者の中でずっと伴に生きようとしている。そんな風に感じながら、避けられない悲しい別れを見守ったのでした。
心よりご冥福をお祈り致します。
〜看護婦手記〜