30歳代で奥様に先立たれ、3人の子供達を男手一つで育て独立させてから、一人暮らしが長くなっていました。68歳の彼は昔からC型肝炎を指摘されながらほとんど未治療で、慢性肝炎、肝硬変そして肝癌にまでなっていました。痩せていて、淋しそうに笑うせいか、少し黄色くなり始めた肌や、腹水で膨れたお腹が痛々しく思えました。
 「罹ってもう長いから、自分のことはよう判ってはる…。」娘さんはそんな風にお父さんのことを紹介してくれました。一人暮らしだと病状の変化を知らせる者が傍に居ないから、在宅ホスピスには適しません。「一緒におってくれる人は居るみたいなんや…。」彼には、何かと身の回りの世話をやいてくれる女友達が居ました。「でも、一人で居る時に死んでたら可哀想や思て…。」娘さんにも新しい家庭があり、長い時間見守ることはできないのでした。
 少しくらいのことでは弱音を吐かない彼も、やがて腹水が陰嚢に流れ大きくなりすぎて歩けなくなった時は、身近に迫った死を感じたようでした。それでも、食べなければと思いながらも食べられないと嘆き、久しぶりにおにぎりが食べれた時「美味しかったわー、こんな事でも嬉しいもんやな。」と大袈裟に喜んでくれました。
 まもなく、洗面器一杯に吐血、便器一杯に下血して、壮絶な臨死を迎えました。「もうあかんのかな、自分でも判るわ。ありがとうな。」誰にも迷惑をかけたくない、その言葉通り、寝込んでしまったのはたったの一日。大好きなだんじり祭りの前夜のことでした。当日は看護師と大通りまで観に出ようと計画していました。つい1週間前まで、「今年はどうもいかん、来年にするわー。」と言っていました。天国からも見えますか?今年も祭りは盛大でしたよ。
 心よりご冥福をお祈り致します。

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