91歳の彼女は、胆管癌でした。高齢になってからの発症例は、経過がゆっくり。ご高齢で既に人生に満足されていたとか、死への準備に時間があったとか、いろんな理由があるにせよ、彼女は死を意識しながら、お孫さんの新居に迎えられました。膝から下の浮腫が著しく、胆管から排液のチューブと尿道ドレーンが留置されていて、痛々しい様子です。そのせいで便が真っ白で、尿の色が濃くて、家族にとっては戸惑うことばっかり。でも不安げな様子も見せずに、これから一緒に過ごせる時間を心から喜んでおられました。
彼女と娘さんと、孫さん夫婦とひ孫さん2人で6人。3人目のひ孫さんが生まれたばかりで、“これでやっと七福神が揃う”と、顔を綻ばせておられました。新しい命は彼女の元気の素、生きた証のようでした。
ほどなく、息が荒くなる様子で痛みを我慢していることが発覚し、麻薬の投与が始まりました。すぐに彼女に笑顔が戻りました。せっかく家で過ごすのだから、笑顔でいなくては。亡くなる前日の診察でもお元気でしたが、次の日、「迷惑かけてすまんけど、眠らせといて。」と穏やかに入眠。それから半日かけて呼吸が不規則になり、永眠されました。彼女は、「きちんと死ぬ」ために家族の元に戻り、家族と過ごす時間の流れの中で命を全うされました。