藤袴

 

 

4世代が一緒に住んでいる大家族。大旦那、旦那、若旦那といらっしゃる中で、旦那さんが肺癌になった。少し前から、咳が続くと気にされていたが、そんなに大きな病気だとは夢にも思わずにいたらしい。普段元気な方だけに行き慣れない病院で、耳を疑うような末期癌の宣告を受けた。

物静かな方だった。ほとんど自分から何も仰らない方で、いつもにこにこ笑顔で対応なさった。対照的に周りの妻達はとてもおしゃべりで、昨日おこった、孫が庭で躓いて転んだエピソードまで報告してくれた。広い部屋の真ん中にどんとベッドが置いてあって、小柄な彼はふかふかの布団に埋もれながら、周りのにぎやかさを楽しんでいた。

肺癌には珍しいことだったが、消化管に転移した病巣からの出血が止まらず、貧血がどんどん進んでいた。身体を少し動かすにも息が切れた。血だらけになるおむつや下着を替えるときも、誰も嫌がることもなく手伝った。病状が厳しくなっても、彼は、毎日学校から元気良く帰ってくる孫達の声が響く日常の中にいた。なぜか笑顔の絶えない家族だった。それぞれの世代が自由に時間を使うから、朝早くから夜遅くまで空気が動いている家だった。それは、今や体が思うように動かせなくなった彼にとって大きな救いになったろう。

家で亡くなった日、覚悟し、予測していたはずの死を、

みんなが大声で泣いた。彼がそこにいた証を残そうとするかのように聞こえた。

 

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