ヒアシンス  

息が苦しくて、じっとしていられない。癌の末期にはこんな呼吸困難に苦しむ事が多い。だから前もって、本人も周りの人も慌てることなく対応できるように方法を探していく。陥るかもしれない病態の可能性を説明し、呼吸訓練をし、体勢を工夫し、薬剤を調節する。突然思ってもみなかった苦しみが覆い被さるように襲ってくれば、誰だって怖いから 。

彼は大きな病院からの紹介だった。C型肝炎から肝硬変、肝癌、そして肺転移。まだ1回しか訪問したことがないのに、「苦しいみたいで、暴れてる。どうしたらいい?」と真夜中に家人から連絡が入った。取り急ぎ駆けつけ、吸入している酸素を最大量にし、落ち着かせようとする。が、パニックに陥っているから、呼吸を整えようとする余裕がない。状況は悪くなるばかり。紹介元の病院に連絡し救急搬送し、急変の原因を調べてもらう。案の定、癌転移巣の一部が破れ、急速に胸水が湧いた結果の呼吸困難だった。その日、病院には入院出来る部屋がなく、前医は説明した。終末期の管理において彼女は専門だから任せても大丈夫、信用して指示に従いなさいと。家族は、いつも「畳の上で死にたい」と言っていた彼を連れて、明け方に自宅に戻ってきた。信頼から生まれた安心感が、彼を呼吸苦から救っていた。休日だったが、早朝から酸素濃縮器を大きいものに替え、気管吸引器を持ち込んだ。持続点滴も開始した。 レンタルした介護ベッドの上で静かに息を引き取るまで、もう彼が取り乱すことはなかった。3日後、少し鎮静剤を使った状態のまま、家族みんなに見守られながら、彼は人生を全うした。

息が苦しくて、じっとしていられない。癌の末期にはこんな呼吸困難に苦しむ事が多い。だから前もって、本人も周りの人も慌てることなく対応できるように方法を探していく。陥るかもしれない病態の可能性を説明し、呼吸訓練をし、体勢を工夫し、薬剤を調節する。突然思ってもみなかった苦しみが覆い被さるように襲ってくれば、誰だって怖いから 。

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