初めてお伺いした日、背が高く、礼儀正しい印象の彼は、とても83歳には見えず、とても肺癌末期には見えないくらいに、お元気でした。最初の切除術から4年も経って、肺に小さな転移が見つかりました。でもその時、精査も治療も希望されず、それからさらに2年、症状なく過ごせました。やがて、頑固な咳が続くようになって、発熱を繰り返しました。腫瘍の増大に伴う症状であることは明らかでした。でも彼は、決して慌てず、「この歳になったら、寿命みたいなもんでしょ。」と、笑って現実を受け入れておられました。「何度も何度も死について考えたから、もう恐くなんかないです。」と。「ただ、家族に迷惑かけたくないなぁ」と、つぶやくように仰っていました。
お酒が大好きで、1日5合のペース!。右足の動脈が詰まったのはそんな頃。激痛が走り動けなくなって看護師にSOS。すぐに病院での塞栓除去術の手配が出来て、1週間の入院で自宅に戻ってきてくれました。
帰ってきてからも一緒。お酒は思う存分飲まれました。好きな物を肴に、食思があまり落ちずに、最期の方まで食事を口に出来たのは、案外そのお陰かもしれません。最期まで、自分の足で動いて、食事は食卓で、排泄はトイレで。しんどい身体で、そういう単純なことだけど、なかなか出来るもんじゃない。迷惑どころか、素敵な生き方を貫いて、ホントに立派だったと思います。
心からご冥福をお祈り致します。