アンスリウム

奥様はとても勉強熱心で、以前からうちのクリニックが在宅ホスピスをやっているのをご存知でした。旦那様が食道癌と宣告されてすぐ、癌については病院に通院しながら、うちにも通院されました。初めの1ヶ月は、頭痛、腰痛といった直接癌とは関係ない症状ばかりでした。かなり痩せは進んでいましたが、笑顔もあって、活気もありました。しかし、右顔面に帯状疱疹が出現し、髪を触るだけでもピリピリとした痛みが残りました。食事が十分に出来なくなり、体力の低下とともに外来通院が辛くなりました。

訪問するようになっても家の中での動きは比較的スムーズでした。お風呂が大好きと聞き、入浴は是非に続けたかったので介助入浴を提案しました。「一人では危険だから、お昼間にゆっくりと入りましょうね」と話すと、「一緒に入ってくれるんか」と笑い飛ばしていました。けれど案の定、その2日後一人で入浴中に溺れかけました。娘さんがいち早く気付き大事には至りませんでしたが、それ以降家で入浴することはありませんでした。

食欲が落ちて食べない日が続くと、今度は飲み込む力も落ちていちいち咽せるようになりました。脇腹の痛みに対して医療用麻薬を飲み始め、日中も眠気が強くなりました。それでも、医師や看護師の訪問の時や、お見舞いに来て下さる親戚や友人の前では、しっかり目を開けて、毅然とした姿を見せるのでした。

亡くなる前日が診察日でした。冷たいゼリーを口に運んでもらいながら、もう発する言葉もなく、でもうっすらと笑ってくれました。「もう十分だよ。」そう言ってるみたいでした。最期の大島の着物姿、超かっこよかったよ。

戻る