アマリリス

 彼女とは、私が岸和田に嫁いできた時からご縁があって、お元気な頃には子供もかわいがって頂いて、いろんな事をご指導頂き、私にとって人生の素敵な大先輩でもありました。
 彼女が、何年か前からご病気になられて「弱った体を見せたくない」と全く外出もされなくなったと聞き、気丈な方だからさもありなんと、影ながら快方をお祈りしておりました。ある日、「痛みが強くてどうにもならない。専門であると聞いたので診て欲しい」と、娘さんから連絡を頂きました。胆管癌末期でした。発病から2年あまり、ありとあらゆる抗癌治療を受けてこられていました。しかし、右季肋部を占拠した癌病巣は腹腔内に散らばり、右尿管に浸潤し、周囲の神経を巻き込んで疼痛が発生していました。また、抗癌剤の副作用で肺が硬くなり、呼吸困難にも苦しんでいました。
 初回訪問では、痩せた身体ながらきちっと背を伸ばし、満面の笑顔で迎えて下さいました。しかし、彼女にとってはそれすら精一杯の状態だったと後でわかった時、胸を突かれる思いでした。在宅酸素も、点滴も、尿道カテーテル留置も、すぐに余儀なくされました。家での療養らしく、大袈裟なことはするまいと心に決めていても、生きたいと切に願う彼女と彼女の家族を前に、一日でも長く、苦痛なく、出来れば癌細胞がいなくなってくれる方法はないものかと模索しながら、念じながら、持てるあらゆる方法を強いてしまったのでした。彼女は最期まで泣き言を仰いませんでした。自分の生命力を信じ、美しく生き抜かれました。
 ただ、69歳は早すぎたでしょう。「置いていかないで」と泣き叫ぶ娘さんの声だけが、やり切れない悔しさと共に、今も耳に残っています。

                      
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