繋がり   

 

 

初めてお会いした時、リビングで車椅子に座っておられました。厳しそうな雰囲気を醸し出しておられ、近寄り難く思いました。しかし、以前からいる訪問看護師とお話されているお顔は、とてもやさしそうで、大きく見守って下さっているかの様でした。いつも楽しそうに談笑されるのです。

しかし、私が話すとやはり頑なでした。

脳出血の後遺症でリハビリ等されており、最近は安定した状態でした。いつも側には一回り若くて綺麗な奥様が付いておられました。一代で財を築いたというプライドをお持ちでした。厳しい反面、とても心やさしい姿が、訪問を重ねる毎に見えてきました。

今年の2月、呼吸状態が思わしくな く、肺炎を疑いレントゲン検査をしたところ、左肺に大きな腫瘍が見つかりました。既に胸水も溜まっており、81歳という高齢、脳梗塞後遺症による片麻痺という状態からは手術適応もない、癌末期の状態でした。その事実を聞いた時の奥様の悲しい表情が、今も忘れられません。

それからは、ほとんどベッド上の生活で、ケアをさせていただく日が続きました。身体の清潔を保つために、頻回に清拭をさせていただきました。裸の付き合いといいましょうか、次第に馴染んでいらっしゃって、私にも心を許して下さっていくのが、ケアを通して感じられました。

奥様は、いつも旦那様の事を気遣われ、片時も離れませんでした。旦那様も、1番信頼されておられ、側にいらっしゃるだけで安心されていました。在宅では介護をする側の精神力も体力も必要になりますが、家族ならでは、そういう大変さを乗りこえられるのだと思えました。

だんだんと痩せてきて、口数も少なくなり、眼を瞑っている時間が長くなってきました。でも、排便だけは気丈にも、最期までポータブルに座ってされていました。

朝、突然の電話連絡で駆けつけると、まるで眠っているかの様に安らかに息を引きとられていました。隣には、眼を真っ赤に泣き腫らした奥様がいらっしゃいました。

身体を綺麗させて頂き、お顔に頬紅を付けると、生前いつも頬を赤く染めていた彼の表情が蘇り、彼の死が信じられない気がしました。今にでも起きて笑ってくれる気がしました。

本当によく頑張られたお父さん、お疲れ様でした。安らかにお眠り下さい。

 

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