存在感

6月27日に、奥様の紹介状をもって、ご主人が来院されました。

紹介状には、平成14年に乳癌の手術をされ、その後肺転移が見つかり化学療法、しかし副作用が強く断念され、現在ははすみワクチンのみで治療されていると書いてありました。そして、今年に入って脳梗塞を2回起こされ、右片麻痺となり、寝たきりの状態となったとのことでした。57歳という若い方でした。

 ご主人は、しっかりとご自分の意志をもっておられ、奥様の病態もきちんと理解しておられ、お話も軽快でスムーズになさいました。すでに奥様はご自宅に帰っておられ、ヘルパーさんも導入され、家での介護は万全のようでした。しかし、病状からも早めに訪問の必要があると判断し、来院された当日に、スタッフ皆でご自宅にお伺いさせて頂きました。

 ベッドに横たわっていた奥様は、少しお顔がふっくらとされて、やさしい眼差しで私共をみつめておられました。しかし、脳浮腫の為か、意思の疎通が難しく、あまり会話が出来ませんでした。

翌日より、訪問開始となりました。食事はご自分で食べられるということでしたが、よく訊くとむせもある様子で、誤嚥の危険を考えとろみ剤を使うことになりました。そういう指導もきちんと受け入れてくださり、ご主人は完璧に介護されていました。しかし、導入時から、微熱があり、予断の許さない状態でした。

7月2日、午前5時45分に携帯が鳴りました。息子さんからでした。「レベルが落ちてます。朝嘔吐してから返事もなく、動きません。」息子さんは消防隊員で、救急車にも乗った事があり、要点をてきぱきと報告されました。こんなにしっかりとした息子さんが側に居られて、ご主人はさぞ心強かったことでしょう。しかし、この時よりさらに全身状態が下降していきました。

 一時、意識が戻られるも、翌日23時に、嘔気・無呼吸が出現しはじめ、再び意識がなくなりました。身体に苦痛を与えることなく行える処置は全てしてやってくださいというご主人の願いもあり、状態に応じて、持続点滴・酸素導入・尿道カテーテル留置等、先生の指示の下で、精一杯奥様と頑張ろうと努力しました。しかしもう意識が戻る事はありませんでした。7月4日午後7時5分、闘病生活を終え永眠されました。

 私共との関係は、その内の極短い時間でしたが、妻であり、お母さんであり、お祖母ちゃんであった彼女は、あまり語ることも出来なかったのに、大きな存在感がありました。

ご主人も、息子さんも、傍目にも愛情が伝わってくる程、手厚い看病をされており、そこにも奥様の存在感が伺えました。

 最期を看取らせていただき、貴重な体験をさせていただき、本当にありがとうございました。人の死は、悲しくもあり、悔しくもあり、でも潔いものだと感じました。どうぞ安らかにお眠り下さい。心より御冥福をお祈り致します。

 

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