68歳で乳癌を切除してから、かれこれ7年が経っていました。だいたい1年毎に胸壁やリンパ節に再発が見つかり、その度に放射線療法や化学療法を受けてきました。腰が痛いと訴えて当クリニックを初めて受診された時、骨に転移かと考えられましたが、そうではなく加齢に伴う骨粗鬆症と圧迫骨折によるものでした。大きな病気の闘病中の身体にも、寄る年波の変化は容赦なく起こるのだと痛感しました。
 彼女には他にも、糖尿病、高血圧など様々な持病がありました。飲んでいる薬は多く、段々自分で管理できなくなっていて、同居する娘さんがお世話をして下さっていました。娘さんはご自分でも勉強し、少しでも長く、楽にお母さんが過ごせるように、努力を惜しまない人でした。たとえば抗癌治療の中止を決める時も、“これ以上だと体力を消耗するばかりで勝ち目はないのだから”とご自分に言い聞かせ、治療を諦めてしまうことになるのではないかという迷いに打ち勝つのに、ずいぶん時間がかかりました。でも、抗癌剤の投与を止めてから、また少し元気な時間が過ごせたのでした。
 さらにたくさんの転換期がありました。脳圧が亢進し意識が混濁し始めた時、呼吸が怪しくなり在宅酸素を導入した時、褥瘡が出来て毎日処置が必要になった時、鎖骨上の皮膚転移した腫瘤がつぶれかけた時、…様々なステージに、その度に話し合い、試行錯誤して、“彼女が彼女らしく生きる方法”をいつも探してきました。
 意識は最期の方まで割としっかりしていて、亡くなる1週間前まで果汁などを口に運んでもらっていました。眠るような最期を迎え、娘さんが「全く悔いはない。」と涙ながらに微笑んだ時、やっとみんなで泣きました。悲しい結果がわかっていても、見事に生き抜いた彼女を誇りに、みんなで讃えたくて…。

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