彼女が、C型肝炎ウイルスにかかっていることが判ったのは、69歳の胃癌にかかった時のこと。胃癌は治ったものの、それから10年して、肝細胞癌を発症しました。この3年間、肝切除したり、腫瘍の栄養血管を詰めたり、ラジオ波で灼いたり、いろんな技術で癌が広がるのを抑えてもらってきました。しかし今回、治療が一段落着いたところで、これ以上の根治術は不可能だと判断されました。「入院するよりは家で過ごしたい」と、娘さんと二人暮らしの家に退院されてきました。
 家で寝ているだけといっても、毎日のお世話は思ったよりもずっと大変でした。オムツを巻いていますが、排尿するたびに便も出て、その度に替えざるを得ません。背中や腰が痛くて何度も自分で寝返りをうとうともがき、結局身体を動かすのを手助けせざるを得ません。それでも、入院中はちっとも食べられなかった食事が出来るようになり、嫌いなラコールという栄養補助剤も頑張って飲んでくれて、少し笑顔が見られるようになりました。
 1週間して、娘さんがかなり疲れて来ました。腹水で大きくなったお腹、黄色く染まった顔、夜中に訴えてくるしんどさ。「夕べは、泣いた事もない人が泣いてたわ。きっとしんどいんや…。」と涙ぐむ娘さんと、入院について再度話し合いました。でも、どちらにしろ対症療法しかないことを話すと、「同じ事なら最期まで傍に居ってやりたい。」彼女の話も堂々巡りでした。
 その日は日曜日で、娘さんの希望で、約3時間毎に診察に行きました。段々と血圧が下がっていきました。ちっとも苦しみませんでした。日が変わってすぐ、娘さんと妹さんにそれぞれ両手を握って貰いながら、彼女は静かに逝きました。

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ペチュニア