ほおずき

 

自分よりもずっと若い32歳で癌になり命を落とすなんて、想像もつかないことです。彼女は約2年間の不妊治療にもかかわらず、子供を授かることが出来ませんでした。諦らめた直後に縦隔腫瘍が見つかり、それを克服後、大腸癌になりました。「私、死ぬんかなぁ。」身体がしんどいらしく、お会いした時から泣き顔でした。運命と言われても、受け入れるには過酷すぎる事実でした。

広島に嫁いだ彼女は実家で療養していたので、いつも旦那様に会いたがっていました。それなのに、あまり会いに来てくれない彼。「仕事が忙しいし、たまに会いに行って丁度いい。」そんなふうに考えていたようです。残された時間がないのに、心から彼を待っているのに…。見かねて彼女の病状を改めて説明すると、彼は絶句し、涙を流して「知らなかった」と言いました。

その日から、それこそ眠る時間さえ惜しんで、彼は彼女の傍にいました。仕事を休んでまで傍にいる彼を不思議に思う余裕さえなく、彼女はみるみる痩せていく自分と闘っていました。腹水が貯まり呼吸が苦しくなり、腹水穿刺し、時間をかけて2リットル抜いても、倦怠感は強くなるばかり。身体が楽になれば笑い、しんどい時は眉間にしわを寄せる正直な彼女の、泣き笑いする切ない顔を今も思い出します。

「どんなことしても生きたい」と、彼女は言いました。その言葉どおり、私達の中で今も彼女は生きていて、あのお家で待っているような気がしています。

 

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