ハッカ

 肺癌を患う前、彼女は華奢でおしゃれだったそうです。この1年で、抗癌剤治療を受けて丸坊主になり、脳転移に対する治療のためにステロイド投与を受けて顔が丸くなりました。外来に来られた時は明るい印象の彼女でしたが、初回診察から、「こんな姿になって自分が哀れだ」と、涙するのでした。

自暴自棄もあって、まだ治験段階だった新しい抗癌剤による治療を受けたと言います。藁をもすがる気持ちでしたが、結果は無効。それどころか、手先足先にはビリビリとした神経痛が残ってしまいました。お箸を持ってもお茶碗を持っても感覚がなくて、落としてしまいます。足裏の感覚もなくて、歩行は不安定でした。

少しでも外に出て気晴らしをしようと、車椅子を借りて色々出掛けました。お孫さんの運動会、ソフトボール大会…。応援して、少し元気が出ました。大好きなパチンコに行くと、意外にフィーバーして連日通いました。「あと3年は生きたい!」と、お孫さんと抱き合いながら笑っていました。やっと伸びてきた髪に、おしゃれなカツラをつけました。家のことも出来る限り手伝って、お孫さんと一緒に、食器を洗ったり洗濯物をたたんでいました。

だけど、少しずつ、少しずつ、息切れや倦怠感で、ベッドに居る時間が長くなっていきました。彼女の傍らにはお孫さん達の布団が敷き詰めてあって、まるでみんなで彼女を守っているみたいでした。最期の3日間、そんな環境の中で、彼女は呼吸苦と闘い、生き抜きました。

夜間もずっと手を握ってあげていたお兄ちゃん、ありがとうね。

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