初めてのセレモニー

 

私がにしだJクリニックに就職した10月、彼はすでに大きな肺癌に侵されて癌末期の状態でした。

訪問看護自体が初めての私にとって、ターミナルという重篤な状態の患者さんであると聞き、緊張していました。「おはようございます!」と寝室へ足を踏み入れると、ベッドの上に座っていた彼は、チラッと私を見てすぐに視線を反らし、照れた表情をなさいました。痩せていらしたからか、初めは少し怖い印象でしたが、とても愛想良くいろんな会話をして下さり、その傍らでこれまた一段と明るい奥様が、いつも気さくに話しかけて下さり、

重責で畏縮していた私に光りを投げかけて下さいました。

ある日、楽しいエピソードがありました。腰巻きの色がピンクで、「恥ずかしい」と気にされるので、私が“見せるものじゃないから別にいいんじゃない?”と言うと、彼は「いや、やっぱり恥ずかしい」とおっしゃるのです。いつも細かい事まできちんとされないと気がすまない彼らしいなぁと、奥様と大笑いしたのでした。楽しいひと時でした。

やがて、1日1日痩せていかれ、段々、呼吸がしんどくなっていきました。私には何もできないまま、何もしてあげられないまま、刻々と時間は過ぎ、時を刻む音が大きく響いていました。一方奥様は、彼を励まし勇気づけながら、きちんと私達と共にお世話に努められました。着々とお別れの時に必要なものを用意し、全てを呑み込んでいらっしゃいました。まるで両手で包み込んで見つめてくれている仏様のように。

お別れの時はあまりにも一瞬で、アッという間に彼は逝ってしまいました。信じられない感じでした。今でも、はにかみながら、笑いかけて下さった顔が浮かんできます。彼の奥様は最期の時に涙されたものの、その後も気丈な態度で采配されていました。私はとても頭が下がりました。旅立ちの身支度をお手伝いして、改めて見つめると、恰幅のいい安らかなお顔でした。奥様の支えがあって、安心されたお顔でしょう。足りない看護ながらも暖かく見守り、訪問のすばらしさを教えて頂き、たくさんありがとうございましたお父さん安らかにお眠りくださいね。そしてお母さん、感謝しています。

 

                                                    戻る