ベロニカ

 肝癌の、特にウイルス性肝炎を経て発生した肝癌の経過は長い。彼女の場合も、たくさん出来ている肝腫瘍が見つかってから、4年も過ぎていた。レーザーで灼いたり腫瘍を栄養している血管を詰めたり、色んな方法を使って根治しようと頑張ったけど、癌は身体に居座った。3年後に肺に転移した。

咳き込んで苦しくて、生活が脅かされていた。全身倦怠感が抜けなくなっていた。でも、新しい抗ガン剤の治験(新薬の効果を試す実験)に参加した。74歳の彼女はしっかりしている。「夜が怖くて眠れないんです。」頭がクリアなだけに、いろいろな考えが頭に浮かぶのだろう。大量の鎮咳薬と睡眠剤が必要だった。

治験が終了しても腫瘍のサイズは変わらなかった。在宅酸素を開始すると、「息がすごく楽!」と喜んでくれた。夫に抱えられてトイレに行き、看護師とヘルパーに見守られて入浴した。しかし、日に日に病状は進んでいった。

本人の望むままに介護していくのは簡単ではない。夜中も1時間毎にトイレに行きたがった。尿道カテーテル留置やポータブルトイレやおむつや、楽な方法はいくらもあるのに、普通の生活を望んだ。理解ある家族に恵まれ、食が細くなっていくのを心配されながらも、ありのままの彼女を通した。最期のお顔はとても誇らしげだった。

戻る