あねもね

 肝臓の機能が落ちてくると、体内に作られてくる有害な代謝物を解毒できなくなるわけで、たとえばアンモニアの血中濃度が上昇してくるから意味不明な発言をし始める。71歳の彼女はもう肝細胞癌の末期で、週3回のアミノレバンという点滴で何とか症状を起こさずにいられた。だから、在宅でも点滴を続けてほしいと、訪問診療の依頼があった。昏睡に陥らない時の彼女は、快活で、少し照れ屋の笑顔良しさんだった。

私たち医療スタッフがかかわる前から、生活面は、甲斐甲斐しい旦那様と、彼とよく息のあうヘルパーさん達が支えていた。食事の準備や洗濯は助けて貰うものの、彼は食事を介助したり一緒に入浴したり、まさに一心同体の生活を送っていた。

お腹が痛いとコールがあったのは、訪問開始して3日目だった。普通の痛み止めは効かず、麻薬の導入となった。痛みはすぐにコントロールできた。彼女の笑顔はすぐに戻った。でも、それからが大変だった。アミノレバンを定期的に点適するだけでは発作的な昏睡は止められなくなった。朝起きたら意識がなくなっているなんて事はザラにあり、それから24時間続けてアミノレバンを点滴し続けると目が覚めてくる。喚いているかと思うと昏睡になり、正気が戻ってくる時には半錯乱状態になる。旦那様は気丈にも、その辛い状況を諦めなかった。亡くなる前日まで、ポータブルトイレに座らせ、食事に気を遣った。彼女の反応がちっともなくても、まるでいつもの生活をしていた。話しかけ、笑いかけていた。

私の最期も、こうありたいと願う。どちらが先になるかわからないにしても、こうして夫婦仲良く年老いていきたい。生活の延長で、死を迎えたい。

心よりご冥福をお祈り致します。

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